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People In The Box × People In The Box #4

●さて、アルバムの話になりそうなところから、いつの間にか“バンド論”みたいな話になってきましたが…。
波多野:でもつながっていますよ。
山口:このアルバムは今後のPeople In The Boxにつながってくる感じなんですよ。今回は“新しい船に乗り換えて航海に出る”ようなイメージがあって。
●最初からそういうイメージで作り始めたんですか?
山口:10周年という企画自体もあって、アルバムを作るということは元々決まっていたんです。10周年の活動内容ともリンクしてくるところがあるので、つながっていないわけではないと思いますね。
波多野:バンドを運営していく上で何かテーマがある中で作ったわけなんですけど、出来上がったアルバム自体はものすごく“作品然としている”というか。曲が出揃った状態で一気に作ったものよりも、結果的にまとまりとしてはめちゃくちゃコンセプチュアルにできているというのが自分としてもすごく意外でしたね。
●別にコンセプチュアルなアルバムにしようと思って作ったわけではない?
波多野:そうです。ただ自分で歌詞の並びとかを見ると、ものすごくコンセプチュアルなんですよ。何か決めて作ったわけじゃないから、“それを要約したらどういうことなのか?”と訊かれても話せないんですけどね。でもこういうタイミング(※10周年)で自分たちの活動を洗い直した時期に、作品然としたものができるというのは興味深かったです。
●結果的にコンセプチュアルな歌詞になっている?
波多野:歌詞に関しては意識していなくても、やっぱり自分たちの人生や現実と向き合う気持ちというのが反映されるわけで。要するに“コンセプチュアル”というのは自然発生的なものではあるけれど、People In The Boxの一番カギとなる部分でもあると思うんですよ。総意として“作品然とした作品をバンドとして作っている”というふうに自ずとなったことがすごく嬉しいんです。
●狙ったわけではなくて、自ずとそうなった。
波多野:自分たちでも、そういうことを大切にしているんです。1曲だけを切り取って楽しむこともできるけど、総体として掛け算みたいに楽しい作品を作れるバンドの強みもあるというか。そういうものが自ずとできたというところで、今の時点では後の10年を考えた中での代表作になったと僕は思いますね。
●今後10年を考えた上で、現時点での代表作ができたと思えているんですね。
山口:10年経ったら、もう40代なんですよね…。でも色々な生活環境は変わったとしても、バンドはできると思っていて。たとえば50歳とか60歳になった時にも今みたいにクリエイティヴな感じで音楽が作れていれば、面白いバンドになるんじゃないかと思うんです。たとえその時は小さなライブハウスでしかできない状況になっていたとしても、それはそれで魅力的なバンドなんじゃないかなと思いますね。
波多野:だってドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』を書いたのは、60歳の時ですからね。しかも当時のロシアの識字率って、1ケタくらいの割合なんですよ。そこであれだけの情熱を持って書いて、ああいう作品ができたということを知ると、もう何も言い訳ができなくて。僕らはそういうものと同じ土俵に立っていると思うし、自分の活動というのは全て世界や社会と並列で生きていると思いながらやっているんです。
●社会と切り離されたものではない。
波多野:切り離されるとか接近するものじゃなくて、そのものだと思います。いち生活者として、僕らはそういうことを知っているから。
山口:意外に“社会人”なんですよね。僕の考えとして、基本的に“ミュージシャンである前に社会人であれ”ということがあるんです。それは自分のドラムレッスンの生徒にも言っていることなんですけど、自分自身に対しても思っていることだし、このバンドに対してもそう思っていて。だから、このバンドが社会とか生活から離れるということはまずないだろうなと。
●常に社会と関わっている。
波多野:よく“バンドは人格だ”とたとえられますけど、そう言っている人も実は案外そう思っていないもので。でも僕は、本気でそう思っているんですよ。1つの人格としてしっかりやっていくには、社会というものを無視するわけにはいかないんです。
山口:ウチらも他の会社員の人たちも、その中で生きていますからね。同じ環境で生きているんですよ。そうである以上は、社会の仕組みやルールに則って生きていかないといけないなと思っていて。そうじゃないと、音楽もできなくなっちゃうんですよね。
●この社会の中で音楽をやっているわけですからね。
波多野:だから僕らの仕事が特権的なものだという幻想は、とうの昔にないんです。僕らも美味しいパン屋さんと一緒なんですよ。
●美味しいパン屋さん…?
波多野:“美味しいパンを頑張って作るんだ”というところに、たゆまない努力を惜しまないというか。でもそれには、しっかりした信念や哲学がないといけなくて。僕らにとっては音楽ですけど、(パン屋さんは)“味覚”というものに対してどうアプローチしていくのかということを考えているので、そこは全然矛盾しないんですよね。
山口:People In The Boxって難しい音楽だとよく捉えられるけど、自分たちではそう考えていないんですよ。僕らが社会からズレているという感覚はないし、そういうことを言われると“えっ本当?”と思ったりします。逆にそういうことを意識しているからこそ、(世の中の色んなことに)アンテナを立てているほうだと思っていて。僕と波多野ちゃんは特にそうだと思いますね。
●健太くんは…?
波多野:健太は、家の中を走り回っている犬みたいな感じですからね。
●何ですか、そのたとえは…(笑)。
波多野:これは褒めていますからね(笑)!
山口:だからこそ僕が提示した曲に、健太は“変だな”と感じたりするんですよ。めちゃくちゃ音楽を聴いているわけではないけど、世の中(によくあるもの)の感じとかはわかるから。そういうものと比べて“変だな”と感じるポイントは、僕が作る曲には比較的多いですね。
波多野:加えて言うと、僕らはそれが自然だと思っているんです。今(の時代の人たち)は“音楽”というよりも、“情報”を聴いているなと感じるんですよね。そういうものに対して、音楽家として僕らは“そうじゃない”ということはちゃんと表明しないとなと思っています。そこは音楽仲間はすごくわかってくれますね。でもそれに対して“どうなの?”という気もしていて…。
●今作の歌詞に関しても、今の波多野くんが考えていることは反映されているんでしょうか?
波多野:今回の作品は、歌詞がフィクショナルなんです。“自分がこう思っている”というものではなくて、“音楽が何かを言っている”というか。“自分の気持ちを音楽で伝える”という意識は、僕にはないんですよね。音楽というのは勝手に自分たちの物語を語っているものなので、それを僕が翻訳するという考え方なんですよ。ただ、翻訳するのは僕だから、結局は自分の考えていることも反映されるんですけどね。
●その音楽が語りたい物語を歌詞として翻訳している。
山口:今回の歌詞はフィクショナルというのは、今言われて腑に落ちた気がします。表現はちょっと違うかもしれないけど、“演技”みたいというか。
波多野:要するに“映画的”だと思うんです。曲によって、それぞれ歌っている人は違うんですよ。主人公が違うというか。でも総意としては僕が音楽に対して描きたいものはしっかりあって、それが確実に反映されていると思いますね。そこが僕の1つのチャレンジでもあって。
●チャレンジした結果として、成功しているわけですね。
波多野:『Talky Organs』(5thミニアルバム)以降でやっていることなんですけど、それ以前は自分が思っていることを歌詞に潜ませるという順番だったんです。でもその順序でやると、音楽自体を制限しないといけない場合が増えるんですよね。だから逆に音楽そのものに対して、“この音楽は何を言おうとしているのか?”というのを純粋に探っていくことがすごく大事になるんですよ。
山口:表現がレベルアップしてますなぁ…。
波多野:それが楽しいの。
●自分でも歌詞について、表現の進化を感じられている。
波多野:たとえば「デヴィルズ&モンキーズ」も今までは、こういう歌詞は書けなかったと思うんです。もしかしたらこれに似た感じにはできたかもしれないけど、意味合いが全然違うんですよ。今までなら“こういうイメージの歌詞”というふうになっていたと思うんですけど、これは確実にこれで完成しているというから。音楽に対して(歌詞が)補い合っているんですよね。
●そうやって音楽と歌詞が互いに補い合える関係性を目指していた?
波多野:あるべき姿に持っていく感じというか。これは自分なりの“達成”でもあるんです。あと、今回は字面自体が音楽的というか、美術的でありたいというのはすごく思っていたんですよね。
山口:それは昔から感じていたし、今回もそういう感覚はあって。最初は何となく自分の中で違和感があったんですよ。良い意味で、今までの感じとはちょっと違うというか。でもさっき“フィクションな感じで作っている”というのを聞いて、“なるほどね”と腑に落ちました。
●大吾くんの中でも、腑に落ちる部分があったと。
波多野:“歌詞を作る”ってすごくデリケートな行為で、それが自分にとってどういう意味合いなのかということを作る人自身がわかっていないと、めちゃくちゃ危険というか。SNSで誰でも言葉を発信できるようになった今の時代に、そこはさらに気を遣わないといけないところだと思っています。“何を歌わないか”というのが逆に大事になってくると思うんですよ。
●というのは?
波多野:(歌詞は)“自分がこう思っている”とか、思想を押しつけるものであって欲しくないんですよね。映画や小説といった芸術作品がそうであるように、“フィクションの中に人が何を見出すか?”というところに期待したいから。そこの部分で“面白いものを作りたい”という気持ちがすごく強いんです。だから歌詞に関しては“1つ達成した”と思っているんですよね。良くも悪くも、1つの形ができたなと思っています。
山口:アプローチとしては新しいと思いますね。そういった意味でも、“船を乗り換えて出港した”感じがあるんです。
●船を乗り換えて、ここから新しい旅へと出港していく。
山口:今後のPeople In The Boxの制作の仕方みたいなところも含めて、この1年でしっかりわかった感じがあったんですよ。その結果としてこういう作品ができたというところで、すごく良い年だったと思います。来年はリリースツアーもあるし、ライブにはまたライブの良さがあるから、そこで今のモードとは違うアプローチで今作の曲をやれるのが楽しみですね。
波多野:健太くんはどうですか?
福井:…そうですね。
●「そうですね」って(笑)。
波多野:いつもこんな感じなんですよ。…ある意味、すごいですよね。本当に“才能だけでやっているんだな”っていう。
●でも全員が同じタイプでも、上手くいかないわけですから。
波多野:みんな歩調が違うのは当たり前ですからね。さっきの三角形の話と同じでいつだって同じパワーバランスの時はなくて、それで全然良いんですよ。健太には、たまに“メールくらい頑張れや!”とは思いますけど…。
●それは音楽的な話というより、もはや“人として”の部分では…。
山口:“社会人として”というところですね。頑張れ!
福井:…頑張ります。
一同:ハハハハハ(笑)。
Interview:IMAI (JUNGLE LIFE編集部)
People In The Box
People In The Box
People In The Box
Vo./G.波多野裕文
Ba.福井健太
Dr.山口大吾